The Migratory Bird

自分が渡り鳥だと勘違いしている人間の書き溜め

人に合わせるのが特技だと思ってきた。自分はいい子だと思ってきた。大人に合わせるのも、同い年の子たちと馴染んだふりをするのも、こなせる、できる、と思ってきた。そうやって自分を量産してきた。使い分けてきた。

 

去年の冬にイギリスから帰ってきた時、"私"の数はピークに達した。離人感覚に襲われることが増えた。魂が私の体から抜けたように感じることが増えた。手や足が自分のものに感じなくなった。自分で動かしている自覚はあるけど、視覚への信頼が薄れていた。地元の景色が余所余所しく映り、家族が赤の他人に感じた。ただでさえ東京で"私"を量産してきたのに、さらに英語を喋る"私"が追加されたし、旅行したヨーロッパ各地の土地の空気に私は溶け、拡散し、そして再吸収し、内包した。そうやって私は分裂を繰り返し、ピュアな"私"を喪失した。

 

私はそうやって"私"を使い分けて他者と関わってきた。その事に疑問を持つこともなかった。不都合もなかったから。人間関係が維持できなくて友達に強い情を持てないことも、ただの性格だろうと思っていた。でも恋愛をするようになって、そう楽観視できなくなった。私の人格の分裂が、悪さをするようになってしまった。私は好きな人の前だと、相手が好きそうな"私"になってしまう。女になってしまう。いい子だから、ニコニコするし、明るく喋るし、セックスを拒まなかった。だけど家に帰って別の"私"に戻ってくると、心から後悔した。また守れなかったと思った。その時は幸せだと感じたし、何も間違っていないと思ったのに。一人になるととにかく何かが悲しかった。

 

私は衝動性が強くて、誘惑に弱い。先延ばし癖もすごいし、遠くの大きなご褒美より、目の前の小さなご褒美に飛びつく。その原理が影響してるんだと思う。後々傷つくとわかっていても、寝てしまうんだと思う。本当は付き合ってもいない人と寝たりしたくないのに、私のいい子さと、誘惑への弱さが、間違いを起こしてしまった。ここ2年半、そんな異性関係しかなくて、もう自分のことも、異性のことも、信じられなくなったしまった。怖くて、どう付き合えばいいかわからない。私はこの人格の分裂を意識的に止めることはできないし、どうやったら、何を話したら、何をしたら、他人と、関係を維持できるのかわからない。私は人と付き合っていくことができない。興味を持つのが難しい。ゆえに、所属することもできない。私は、向き合う他者にとってその場限りの存在でしかいられなくて、一貫性がないから。私は、私を維持できないから、人との繋がりも維持できない。私は、できないことがたくさんあって、だからこんなぐちゃぐちゃの人生になっていて、もう4年以上精神薬を飲んでいて、未だに落ち着かない。

 

社会的な動物の私は、残念ながら人と繋がらずには生きていけない。どんな形でなら快適に人と繋がっていられるのか、どんな態度で人と向き合えば維持ができるのか、探っていかなくてはいけない。そのためには自己理解をするしかなくて、嫌になる程、これからも自分の研究を進めるしかないと思う。

 

そのためにも、私は今まで心理学関連の本を幾らか読んできた。本棚にそのスペースがある。好きだった人にそのスペースを小馬鹿にされて以来、なんだかもう、今まで健康に社会生活を送るために努力してきたこと全部が馬鹿らしく感じることが増えてしまった。なけなしの夢や希望を絞り出して、水で何倍にも何倍にも薄めてカサ増しして、「頑張ります」とか「負けないぞ」とか「大丈夫!」とかの綺麗な言葉で色をつけて、大事に大事に保管していることも、全部、アホらしくなってしまって、全部、排水口に流してしまいたくなる。私の努力なんて、足並みを揃えるための努力なんて、認められるに値しなくて、恥ずかしくて、嘲笑の対象で、私は劣っていて、その事だけが真実で、私はもう、全ての"私"をやめてしまいたいなと思う。どれが本物かもわからないのに、どうやって「自分を大事に」したらいいのかなんてわからない。

 

もう、やめてしまいたいなあ。もう4年も頑張ったもん、ただ大学に通うためだけに。そんなこと、普通の人は精神科に通わなくたってできることなのに。私には私の良さがたくさんあると知ってはいるけど、だとしても、こんなにつらい思いをしながら生きていないといけないなら、消えたほうがマシだよね。

 

頭の隅ではわかってる。こんなにつらいのはPMSのせいだって。二日前だもん。だけど、こんなのが近い将来また来ると思うと、気休めにもならない。この体をやめたい。他人との縁を切るのは簡単なのに、私との縁は切れないから大変。腕なら切れるから切る。

 

重たく痛む頭がちゃんと働かなくて、体の動きがゆっくりになる。食欲だけが酷く強くて、他人が、特に異性が酷く憎い。腕は赤い線がたくさんあって美しい。アイスランドの歌手が妖美な旋律で歌う。心が地上から舞い上がって、私は上空800mから街を見下ろす。救急車の音がこびりついて離れない。鳥は焼け落ちて、魚はコンクリートの上で生き絶える様子が見える。今力を抜けば、私もコンクリートに打ち付けられて、彼らと一緒になれるのになあ、と思う。頭が働かない